心の釣り師

大抵の男親は、息子が生まれたら、
「この子が大きくなったら、
一緒にキャッチボールやりたい」とか
「共にプラモデルを作りたい」などの
男同士ならではの夢があるだろう。
一緒に遊べる男兄弟がいなかった末っ子の
父にとって(兄達は年が離れ過ぎていた)、
魚釣りがそんな夢の一つだった。

当時田舎では、未だ跡取り息子の意味が大きかった。
確かに、父の息子(私の弟)に対する期待も大きく、
弟本人が強請った訳でもないのに、
誕生日やクリスマスの折には、
いつも一際高価なプレゼントを買い与えていた。
なので私は妬んで、小さな頃から弟を苛めた。

弟が小学校高学年ぐらいの時、
周りのクラスメイトに影響されて、
釣りに興味を持ち始めると、
父は、待ってました!とばかりに感激し、
母の心配や非難も聞かずに、
子供にとっては高価過ぎる、
本格的な釣り道具一式を弟に買い与えた。

そしていよいよ、父と息子の初の釣りの日。
戻って来ると…、父はブリブリ怒っていた。
弟はメソメソぐずっていた。
「こいつ、弱虫で何も出来ないんだ!」
何でも弟は、父が得意がって指導することが
何一つこなせなかったらしい。
餌(生きたウジ)を釣り針に付けるのさえ
嫌がって怖がって、出来なかったそうだ。
それで短気な父は、どんどんイラ立ち
(教師なのに。忍耐持てよ)、
弟は怯えて益々出来ない悪循環。

それ以降、父と弟が釣りに出掛けることはなかった…。
高い釣り道具一式は無駄となった。
弟を弱っちく育てた要因は、当然父にも大いにあるのに、
結局、彼も世の中に多い、子供に期待を掛け過ぎ、
妄想を膨らませ過ぎた、バカな親の一人だった。

念の為、弟はその後も何回かは、
友達と一緒に、または一人で釣りに出掛けた。
今でも、釣りをしたい気持ちは大変あるらしい。
釣りを巧みに楽しむ自分が、
弟の理想の姿の一つだそうだ。
でも、下手(それ以前の問題)で出来ない。
彼は、「心の釣り師」と自分を呼ぶ。
父とのことが、トラウマになっているのかも(苦笑)。
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by piyoyonyonyon | 2014-07-09 15:03


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