人気ブログランキング |

アルツハイマーの叔母

今年の義父の誕生日は、
ノッティンガムの甥っ子達と
祝いたいと言う義父本人の希望で、
一家揃ってノッティンガムへ出向くことになった。

勿論そこで誕生パーティーを開く訳だが、
市内の重度の老人介護施設に入所している
義父の妹(夫の叔母)に、
2年ぶりに会いに行くのも重要な目的だ。

叔母はアルツハイマーで、
3年程前からこの施設に入所している。
7、8年前の、まだ60歳代に発症して、
私が彼女に初めて会った時には、
もう既に言動がおかしかった。

その後しばらくは、
時折意識がはっきり戻ることもあったが、
どんどん悪化し、日常生活を送ることが不可能になり、
今では実の息子や兄ですら認識出来ない。

アルツハイマーと言う脳の病気は、
思考や記憶に障害を来たすだけでなく、
脳から体へのあらゆる信号をも麻痺させ、
身体機能を低下させるので、
叔母は些細なことが原因の怪我も多いと聞く。
余命も幾ばくもないのでは、と夫は心配する。

叔母には、息子(夫の従兄)が二人居るが、
同市内にそれぞれの家族と住んでいるのにも関わらず、
結婚後仲違いして、ずっと疎遠の兄弟である。
入所の費用は、多分それまで母親が一人暮らしをしていた
家を売却したお金で賄っていると思われるが、
それらの手続き・処理の一切を次男が行っており、
長男は何一つ手助けしないどころか、
入所後は母親に会いにさえ来ないらしい。
そのせいで、益々兄弟仲が悪い。

私と夫は、その叔母に入所後会うのは初めてだった。
前回彼女に会った時は、
既に身だしなみを整える等の社会感覚を失っていたらしく、
髪はボサボサの、かなり薄汚れた身なりだった。
今回会う前に、義母から、「見るとショックな状態だから
覚悟しておなさい」と言われていた。

戸惑ったのは、義妹(と姪)が、
ノッティンガムまで来たのに、
叔母さんに会いに介護施設には行かないと急に言ったことだ。
「会っても、どうせ私のことはもう分からないから」
との理由だったが、それは誰もが承知の上だ。
夫や義妹にとっては、叔母さんは、
何度も一緒にクリスマスを過ごした、
最も身近な親戚なのは確かで、
夫は、「見るのは辛いけど、もしかしたら、
最期の機会になるかも知れないから、
会っておかなきゃいけない」と言っていたのだ。
妹が会いに行かないのに、
他人である私が行くのも変だなと思いきや、
もし本当にそんなにショックな光景だったら、
夫の側に居たほうが良いかもと思って付いていった。

次男の従兄は、自宅から程近い施設に、
義両親を私達夫婦を車で連れて行ってくれた。

以前は見た目は年齢よりもずっと若々しかった叔母は、
すっかり老けて痩せ細り、肉体的にも弱って
歩くのさえ覚束ない様子だったが、
身なりは小ざっぱりとして、顔色は良かった。

初期症状では、まず英語を忘れ、
母国語である広東語しか話せなくなったが、
今ではそれすら全く話せない。
言葉にならないことを、始終ブツブツ言っているだけである。
以前のことを何も憶えていないだけでなく、
現在の記憶自体も極めて短いのだが、
感性は確実に残っていて、
時々は何かを訴えたいらしい。

「ご飯を食べさせてくれない」だの、
勘違い(または記憶の消失)から喚いたりして、
家族を困らせる段階は、もうとうに過ぎてしまった。
徘徊する身体能力すらない。
今は只、非常に曖昧で穏やかな世界を
朦朧と生きている状態だ。

認知症の家族を持つ苦労は計り知れないし、
叔母さんの哀れな姿を見たら、
皆悲しくて泣いてしまうかも
知れないと覚悟していたが、
叔母さん自体の中では十分幸せなようだ。

瞳が、子供のように澄んでいる。
ここの入居者は、全員そうだった。
皆小奇麗な格好をして、
大人しくテレビを鑑賞する様子を見るだけでは、
とても認知症とは思えない老人が多い。
中には、とてもお洒落なお婆さんも居た。

施設の中の造りも、
カフェ・コーナーやバー・コーナーなど、
色々楽しく工夫されている。
決して陰気な雰囲気ではない。
こういった老人介護施設での患者への虐待が、
日本同様に度々イギリスでもニュースになるけれど、
ここのスタッフの熱心な仕事ぶりには頭が下がった。
肉体的にも精神的にも非常に忍耐の居る、
大変な仕事なのは疑いようもないが、
皆笑顔を絶やさない。

これらのことは、「対岸の火事」では全くない。
私の両親も義両親も高齢だし、
特に夫の血統にはアルツハイマーが確実に出ている訳だから
(うちの一族はその前に癌とかで死んでいる)、
認知症を防ぐ食べ物を積極的にとったり、
初期症状を見逃さないよう気を付けるべきと肝に命じている。
いや、近い将来、半数以上が認知症に掛かると言われており、
誰にとっても他人事ではない。

ところで、実の息子の一人でさえ会いに来ないのに、
叔母さんのボーイフレンドは、
今でも彼女に会いに、度々この施設を訪れるそうだ。
一度だけお会いしたことがあるが、
中々知的で素敵なお爺さんで、
彼には頭が下がる思いがする。
by piyoyonyonyon | 2014-12-17 15:08


<< 猫家族 メンヘラ母 >>